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1-7 学校歯科健診で歯列不正を指摘されたら・・・

歯科健診を含む、学校での定期健康診断は毎年6月30日までに実施することが学校保健安全計画により決まっています。

歯科健診のメインの目的は、虫歯があるかどうかを調べることですが、虫歯以外にも、①歯列・咬合・顎関節、②歯垢の状態、③歯肉の状態という3項目を調べています。

最近は虫歯の全くないカリエスフリーな子供も増えてきましたが、その代わり、歯列不正でひっかかる場合があります。軟らかい食事のせいで、顎の発達が悪くなりつつあるのに、歯の大きさは昔の人と比べて大きくなる傾向にあります。つまり、小さな顎に大きな歯はキレイに並ぶことなく、不正咬合の児童はますます増えています。

歯列・咬合の項目は、0異常なし、1要観察、2要精検の3段階で評価します。1の要観察は軽度の歯列不正で経過観察が望ましいものです。或いは、既に矯正治療中の児童につける場合もあります。2の要精検は、重度の叢生、上顎前突、下顎前突などの歯列不正の場合で、精密な検査を受けることが望ましいものです。

さて、歯科健診の結果が通知され、歯列・咬合の問題が指摘されている場合は、かかりつけ歯科医や矯正専門医に相談する必要があります。この問題は、単なる見た目の問題だけでなく、歯列不正を放置すると、将来に虫歯や歯周病にかかる危険性が増すからです。

カリエスフリーで歯科を受診した経験が全く無い場合は、かかりつけ歯科医もいないでしょうから、それまでに歯列不正が気になっていても、矯正相談する機会がなかったかもしれません。或いは、乳歯が全て抜けて永久歯列が完成しなければ、矯正治療を始められないと思い込んでいる親御さんもいらっしゃいます。これらの場合、歯科健診結果の通知を、矯正歯科受診のきっかけとするべきでしょう。

中には、出っ歯などの見た目から、学校でからかわれている場合があります。そのことを親に内緒にしたまま悩んでいる子供もいます。歯列不正の通知は、そのようなことがないか、子供に尋ねるよい機会となりましょう。

また、歯科受診の経験が無く、永久歯の先天欠如に気がついていない場合もあります。その欠如率は10.09%で、約10人に1人という高い割合でいることが分かっています。健診結果通知がきっかけとなった矯正歯科の受診で、そのことを知ることもあり、その場合は、矯正歯科で歯列の管理をしてもらうのが最適です。これについては、【歯の欠損について - 永久歯先天欠如】のコラムをご覧下さい。私の書いたコラムの中で一番アクセス数の多いものです。

幼稚園の年長から小学校の低学年にかけて、前歯は、小さな乳歯から、大きな永久歯へと生え代わります。このときに、乳歯列で隙間がなかった児童では、歯列の歪みや不正となって現れます。例えば、上の前歯が極端に飛び出してしまったり(上顎前突)、側切歯と呼ばれる2番目の上の前歯が、極端に後方へずれて生えてしまい、噛んだときに、下の前歯の裏側に隠れてしまうことがよく起こったりします(前歯部交叉咬合)。このような劇的な変化は、小学校低学年で起こりますので、幼稚園時代に歯列不正を指摘されなかったとしても、小学校に上がった途端に通知を受けることになります。

歯列不正の通知を受けたら、かかりつけ歯科医か矯正専門医に相談されるのが望ましいです。かかりつけ歯科医の中には、矯正治療を手がけていない場合もありますので、その場合は、その先生より矯正専門医を紹介してもらうこととなります。

すぐに治療が必要かどうかは、たいていの場合、相談時に判断が可能です。治療開始が決まれば、精密検査へと進んでいくことになります。ただし、治療の開始時期は先生によってかなりの違いがあります。その辺りの事情については、【子供の矯正治療の開始時期と終了時期について】のコラムで詳しく書きましたので、そちらもご覧下さい。すぐに治療開始とならない場合は、乳歯から永久歯の交換状態を、半年~1年間隔で観察していくことになります。

矯正治療の開始時期として、多くの場合、小学校の半ば(小学校中学年、およそ9歳以降)からが望ましいと、私自身は思っています。中には、治療開始を遅らした方が治療期間が短くなって良いこともあり、その場合、小学校の高学年や中学校から治療を開始します。開始時期はケースバイケースですから、その判断は矯正歯科医が行います。このように、矯正治療は、『早期発見・早期治療』が唯一当てはまらない医療分野だと、私自身は思っています。ただし、虫歯は放置しても治りませんから、『早期発見・早期治療』が原則です。

3、4、5歳からという、とても早期からの予防的な矯正治療が理想的であるとの信念から、早期治療に真剣に取り組んでおられる真面目な先生も大勢いらっしゃいます。私の考えとは異なりますが、彼らの主張も理解できます。しかし、中には、早く患者さんとして取り込んでしまいたいという営業的な思惑から(もちろん、そのような事を患者さんには伝えませんが)、早期治療を進めるような残念な先生も少なからず存在します。

また、「このまま様子を見ましょう」といって、意味も無く待たせる場合もあるようです。この場合、いつまで待ったら良いのか患者さんや親御さんは混乱し不安がつのるばかりです。どのような理由でいつまで待つのか、明確な説明がないのなら、その医院での治療を避けられた方が賢明かも知れません。

このように、色々な開始時期の考え方があります。また、様々な治療法があります。最初の1件目の歯科医院で決めてしまうのでなく、面倒でも、複数件を回って、一番信頼できると思ったところにかかられるべきだと思います。それぞれの先生の言い分が異なり、親御さんも混乱してしまうかも知れませんが、納得のいくまで相談すべきと考えます。矯正治療では、全ての歯を触りますし、数年もの期間がかかりますので、間違った治療による悪影響は非常に大きなものとなりかねません。【子供の歯列矯正-③治療医院の選択】【歯列矯正をしたのに、歯並びが治らない!?】のコラムも併せて読んで頂ければ幸いです。

P.S. 1
実は、「噛み合わせが悪くても顎関節症になるとは限らない」と世界中の研究者に支持されています。にもかかわらず、健診の項目として、『歯列・咬合・顎関節』は一つの項目になっており、悪い噛み合わせと顎関節症との間に、直接的な関係があるかのような誤解を生む恐れがあります。私としては、『歯列・咬合』と『顎関節』の二つの項目に分けるのが望ましいように思います。【噛み合わせが悪いと顎関節症になるのか?】のコラムを参照。

P.S. 2
健診? 検診?
健診は、あくまで健康かどうかを大雑把にスクリーニングすることであり、学校で行われる『けんしん』は『健診』になります。検診は医院で行われるような精密なもので、治療を前提に行われます。よって、以下の文章は、ともにあり得ます。
・健診でひっかかったので、さらに医院で検診を受けたが、問題なしと言われた。
・健診でひっかからなかったが、検診では異常が見つかり、治療を受けることになった。

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