エッジワイズ治療を受けられる患者さまに・・・ - はじめに -
初めて、矯正治療を受ける「あなた」は、きっと不安で一杯だと思います。
例え話になりますが、登山でも、進むべき道のりがわかっていれば、少しでも足取りは軽くなります。山頂の見えない登山は、足取りも自然と重くなります。
私の小学校の冬山登山は、金剛山でした。登り終わった後には、その道のりは短いように思えたものです。矯正治療も、その道のりを知っていただければ、ゴールまでのあいだ、少しでも安心して、治療を受けていただけると思います。
もちろん、途中で、「雨」や「雪」が降ることもあるかもしれませんが、必ず、私たちが一緒にゴールインします。そのような思いで、当院で治療を受けていただく患者様に、少しでも治療の流れを知っていただこうと、このコンテンツを作成しました。
当院で行っているエッジワイズ治療(写真1)の流れについて説明いたします。
エッジワイズ装置とは、ブラケット(金属製またはセラミック製)という装置を上下すべての歯に接着し、屈曲したワイヤーを個々のブラケットにはめた装置の総称です。
ワイヤーは細いサイズの丸いものからだんだんと太いサイズへ、また、角のワイヤーへと変わって行きます。
ワイヤーの材質も軟らかいものから硬いものへと変わっていきます。
色々なワイヤーを使うことによって、個々の歯を3次元的にコントロールし、奇麗な歯並びとかみ合わせを作っていきます。
治療開始からの各ステップをご紹介いたします。
抜歯される方の治療の流れを書いておりますが、非抜歯治療の方にも参考になると思います。
非抜歯で治療を受けられる方は、エッジワイズ装置を装着する前の段階における拡大処置によって出来た歯列内スペースが既にありますので、抜歯する必要はありません。抜歯の部分をとばしてお読みください。
また、続けて拡大処置が必要な場合は、写真11~12の補助装置を装着する場合が多くなります。
一般的な治療例として上下の歯並びに「がたがた」のある乱杭歯を想定しました(写真2~6)。
ご自身の場合と置き換えてご覧ください。
写真の場合の治療方針は、上下の第一小臼歯(前から4番目の歯です)の抜歯となりました。
まず、歯の間に隙間を作るために「セパレーション」(写真7)を行います。治療を終えられた患者様にお聞きすると、「このセパレーションが一番痛かった」と言われることがあります。
たかが「ゴム」ですが、初めてお口の中に入る矯正装置です。何ぶん、はじめてのことなので、強い痛みに感じてしまうようです。
ただし、ほとんどの方は違和感として2~3日感じられるものの、徐々に無くなりますのでご安心ください。
もし、痛みを強く感じた患者さまも、前述の言葉を考えれば、今後の治療において、これ以上の違和感、痛みは無いことになります。
そして次は、2~3週間後にご来院いただき、セパレーションによって出来た大臼歯の隙間の部分にバンド(写真8)をあわせます。
その後は、個人によって装着の順序が異なりますが、通常3~4回の間で、順次、装置の装着を進めていきます。下図の写真は、装置の装着が終わったところです(写真9~10)
場合によっては、お口の裏側に補助装置を装着させていただくこともあります。(写真11~12)実は、お口に装着させていただくエッジワイズ装置の中で、この側に装着する補助装置の違和感が大きいようです。通常は、1月ほどで慣れますが、どうしても違和感が残る場合は、装置の変更などをご相談させていただきます。
登山で言えば、装備を整えて、登山口に立ったご自分を思い描いてください。もしかすると、装備の重さに、びっくりされるかもしれませんが、いざ、登り始めると、その装備の重さは、ほとんど気にならなくなります。不思議ですが、本当です。
場合によっては、永久歯の抜歯が必要な場合もあります。その時は、お口の中に一部、装置を装着した後に、アレルギーなど体調に異変がないことを確認していただいてからの抜歯としております。抜歯いただく箇所にもよりますが、2~3ヶ月の間に進めて頂ければ結構です。体調、仕事、勉強など、ご都合のよい間隔で処置を受けてください。抜歯は、誰にとっても嫌なことですが、きれいな歯並びを獲得するための処置です。なんとか頑張って乗り越えましょう!(写真13~14)
エッジワイズ装置による治療の一般的なステップは、抜歯した場合、4段階に分けられます。抜歯処置を受けたばかりの患者様は、歯を抜いた場所がちゃんと閉じるのか・・?などといったご不安が大きい時期かと思います。それも含めて、ステップごとに見て行きましょう。
期間:6カ月~1年位
目的:このステップでは、上下すべての歯のデコボコを治します。つまり、隣接する歯との重なりや歯のネジレを解消したり、高い位置や低い位置にある歯を同じ高さにしたりして、すべての歯の並びが平らな面になるようにします。
このステップが終わる頃には、デコボコの歯並びは平らになりますので、もともと乱杙状態がひどかった歯並びの場合には、かなり満足されるのではないでしょうか。
しかし、これでおしまいというわけにはいきません。抜歯によりできたスペースもかなり残っていますし、上下それぞれの歯並びが平らになっていても、ほとんどの場合かみ合わせにズレが残っています(写真15~16)。
この頃になると、痛みも無くなり「もっと強くして」といった患者様もでてきます。
もっとも、ある基準以上に強くしたからと言って、早く動くわけあけではありません。
登山にたとえると、1合目から3合目あたりまで登ったところです。「見晴らし」が良くなり、もともと「がたがた」の強かった患者様は、5合目まで登った気分です。歯が並んだことによって、治療を受けるための張り合いが出てくるころです。
期間: 6カ月位(STEP1、またはSTEP3と同時に行う場合もあります)
目的:抜歯によりできたスペースへ、ゴム(チェーン・エラスティック)やスプリングなどを用いて、犬歯を移動するステップです。
上下の犬歯の位置関係を確認しながら後方へ移動します。
ただし、場合によっては、このステップを省いて次のステップに進むこともあります。
このステップ(前後関係をしっかりと保つために)、あるいは、以降のステップをしっかりと行うために、顎外固定装置と呼ばれる補助器具(写真17、ヘッドギアーとも言います)を夜間の就寝の際に装着していただくよう、お願いすることがあります。
また、同じ目的で、顎間ゴムと呼ばれるゴムリング(写真18)も患者様ご自身によって上下の顎の間にかけていただく場合があります。
「顎外固定装置」、「顎間ゴム」は、治療の中で非常に大切な役割をもっていますから指示どおりに、お使いください。
そうでないと、治療が予定通りに進まなくなったり、思うように治らなくなったりすることもあるので、一緒にがんばりましょう。
期間:6カ月~1年位(STEP1が長くかかった患者様は、この期間が短くなります)
目的:最後の残ったスペースを閉鎖するステップです。STEP3が終わった段階では、犬歯と前歯の間にスペースが残っています。上下の4本の前歯をまとめて後ろへ動かし、このスペースを閉鎖します。STEP2を省いた場合には、6本の前歯をまとめて後ろへ動かすことになります(写真19~20)。
4~6本の前歯がまとまって下がる訳ですから、治療前に上顎前突(出っ歯)であった場合には口元の突出感が解消されますし、また、下顎前突(受け口)であった人では、反対になっていた上下前歯の前後的関係が改善されます。
この段階が終わる頃には、上下前歯の前後的な位置関係もほぼ正常になり、口元の印象も良くなります。きっと今までの苦労が報われた気持ちになるでしょう。
ここまでくると、8合目あたりです。もう、登頂した気分です。でも本当は、ここから後の頂上までが歯の安定のためには大切な期間なのです。
期間:6カ月位(場合によっては1年近く)
目的:1本1本の歯の細かな位置付け(微調整)をして、上下の歯がしっかりかむように仕上げを行うステップです。しっかりとしたかみ合わせは、きれいになった歯並びの安定にとって最も重要な要素となります。
STEP3まで終わった段階では、見た目にはほとんどデコボコもなく平らになり、出っ張りもなくなり、きれいな歯並びになりました。
でも、それで終わりではないのです。
矯正治療では、この最後の仕上げが非常に大切なのです。このステップをおろそかにすると、理想的なかみ合わせが得られないばかりか、治療後の後もどりする可能性もでてきます。
ここが、最後の我慢です。
これを乗り越えて、やっと重い装備から解放されます。登頂成功です。
おめでとうございます!この登山には、下りはございません。ご安心ください。
装置装着から、撤去まで、上記の期間を合計しますと、2~2年半程度かかります。
(ただし、歯並びの程度、治療計画、年齢などによって、期間がかわることもあります)。
決して、短い治療期間ではありませんが、最後に、きれいな歯並びになります。
装置のはずれる日を夢見て、くじけずに、一緒にがんばりましょう。