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3-15 歯は元に戻るの?

身近に歯列矯正を経験された人がいるなら、せっかく矯正治療をしても戻ってしまったという話を聞かれたことがあるかもしれません。矯正後に完全に元に戻ることはほとんどありませんが、ある程度戻ることはよくあります。もちろん、戻らないようにするための対策はあります。

治療後に装着して頂く、リテーナー(保定床)という装置があります。リテーナーは、歯を動かした位置にとどめておくようにした、取り外し式の装置です。例えば、エッジワイズ治療が2年かかったとしたら、同じ期間の2年間リテーナーをする必要があります。しかし、歯列不正に至った原因が残っていたとしたら、リテーナーを止めた後、戻ってしまうこともあるのです。また、無理な治療計画のもと、強引に歯を並べた場合も、リテーナーで安定させることができません。

つまり、大事なことは、次の2つになります。
①原因を考慮し、戻りにくいような治療をすること
②無理をせず、身体の適応範囲内の治療をすること

まず①原因を考慮した矯正治療について考えてみましょう

本来人間の歯・歯列は歪もうと思って存在しているのではありません。キレイな歯並びの方が、噛むのに有利であることは、恐らく身体自身よく分かっています。それなのに、歯列不正が存在するのは、不正におとしいれるような原因が存在するからです。

『子供の歯並びが悪くなる原因は』のブログで、原因には、環境的原因と遺伝的原因があり、環境的原因には、鼻咽腔疾患や舌突出癖という口腔に関する悪習慣が関係していることを説明致しました。これらの原因があって、出っ歯、受け口、開咬等の歯列不正に至るのです。環境的原因は他にもありますが、これらが最たるものです。

もし、歯並びの不正の程度だけを見て、原因をあまり考慮せず、治療方針を決めたのなら、矯正装置を頑張って使用してもうまくいかないかもしれません。また、何とか治療できても、すぐに後戻りしてしまうかもしれません。こうならないためには環境的原因を除去してから矯正治療を行うか、矯正治療と並行して原因を除去する必要があります。鼻咽腔疾患が原因なら耳鼻咽喉科での治療が必要でしょうし、舌の悪習癖なら、舌のトレーニングを頑張ってもらう必要があります。

遺伝的原因がある場合は、遺伝の悪影響が大きくなる前から対処すれば、原因を考慮した治療といえます。その影響は成長とともに大きくなり、思春期の成長により症状は増悪します。従って、その前の小学校の半ばくらいからの治療が望ましいのです。成長発育があるとは、変化を受け入れる許容があるということを意味していますので、悪影響を抑えるだけでなく、成長発育を逆に利用して、骨格的な改善を目指すことも可能なのです。

次に②無理をしない適切な矯正治療について考えてみましょう。

歯を抜かない、非抜歯矯正治療というものがあります。矯正治療と言えば、以前は、歯を抜くことが多かったのですが、治療技術や装置の進歩で、歯を抜かなくて済む場合が増えてきました。非抜歯で治療を成功させるためには、歯列の拡大がキーになります。歯列を側方へ拡大したり、後方へ拡大したりして、歯が並ぶスペースを確保するのです。

ただし、際限なく拡大できるわけでなく、その拡大には限界があります。歯の外側には、口唇や頬粘膜があり、歯の内側には、舌があります。歯は、口唇・頬から受ける力と、舌から受ける力を受け止めて、バランスをとりながらその位置を決めています。もし限界を超えて拡大をすると、口唇・頬からの力の方が大きくなり、歯は内側へ押しやられてしまいます。こうなると、リテーナーでも保持することは難しく、歯は元の位置へ戻ってしまいます。

さらに、口唇が閉じられなくなるまで拡大した場合、口唇による歯止めがなくなり(押し戻せなくなり)、逆に歯が飛び出してしまうこともあります。非抜歯矯正をしたら、お猿さんのような飛び出た口元になってしまったという情報がネット上で散見されますが、まさしくこのような場合であり、思い切って抜歯するという選択が患者さんとドクターともに必要だったのです。ここまでいくと、後戻りの心配より、更なる問題を惹起させたことになってしまいます。

従って、後戻りをさせない、無理をしない適切な矯正治療とは、無理のない限界を正しく診断できるかにかかっています。ただし、治療前からこの限界を完全に診断することは難しく、治療をしながら、身体の反応を見定めて診断を下すこともあります。また、治療技術と装置の向上により、今後この限界が伸びていく可能性はありますし、この限界は、ドクターによって異なります。

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