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2-6 部分矯正は簡単?

上顎前歯のみを矯正したいといった部分的な歯並び改善を希望される患者さんが少なからずいらっしゃいます。装置を着ける範囲を少なくして見た目を良くしたいためであったり、費用を抑えるためだったりと思われます。また、治療期間を短くしたいためかもしれません。

このような歯列の一部分のみ矯正治療をすることを部分矯正といいます。また、限局矯正MTMMinor Tooth Movement)と呼ばれる事もあります。

患者さんの希望される部分矯正はほとんど前歯の矯正です。1本だけ飛び出している歯を引っ込めたいとか、上顎前歯の真ん中にあるスペースを閉じたいとかいったよく目立つ部分の矯正治療です。奥歯の部分矯正を希望される場合もありますが、ほとんどはかかりつけ歯科医からの紹介です。

患者さんとしては、部分的に歯を動かすことは易しいと思われているかもしれませんが、むしろ難しい場合が多くあります。単に歯を動かすだけならとても簡単で、当該歯に力をかけるだけです。しかし、その結果、動かしたくない歯まで動いてしまうとしたらどうでしょうか?明らかに失敗ですよね。

実は、動かす技術よりも動かさない技術の方が数段難しいのです。歯を動かすためには矯正力をかけるのですが、その反作用が必ず周囲の歯にかかります。反作用で動かしたくない歯が動くと困りますので、反作用を複数歯に分散させたり、反作用のかかる部位に、固定装置を着ける必要があります。例えば、前歯1歯を動かすだけでも、当該歯を挟んで全部で6歯くらいに装置をつけます。装着歯数を減らしたがために反作用で歯が並ばず、かえって治療期間が長引くこともあります。結局、装着歯数を増やして、安全で確実に治療する方が良いとの思いから、矯正専門医院では全体矯正を選択する事の方が多いようです。

もちろん不正の程度が軽く、簡単な部分矯正もありますから、費用的にも期間的にも患者さんに優しいのなら、部分矯正を選択すべきでしょう。そのためには、症例の難易度を判定できるのが前提です。部分矯正の方が簡単だと思い込んでいる歯科医もおり、この場合、難易度を判定できるとは思えません。トラブルに遭わないためにも、ドクター選びは慎重にしたいものです(『歯列矯正をしたのに、歯並びが治らない!?』というコラムも参考にして下さい)。

P.S.
歯列の不正が全体に及んでいるのに、よく目立つ前歯のみ部分矯正したいとのニーズがあります。このような部分矯正では、機能の回復は得られません。本来は、機能の回復の結果として、見た目も美しくなるのが本筋ですから、このような場合、全体矯正が必要です。安易な部分矯正には賛成しかねます。

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