トップページ > 院長の考える矯正治療 > 1-10 非抜歯? 抜歯?

1-10 非抜歯? 抜歯?

- 『適切な非抜歯矯正』とは・・・ -

インターネットが普及し、歯列矯正に関する情報も簡単に手に入る時代がやってきました。しかし、情報がありすぎてかえって混乱しているのではと思う状況も増えている様に思います。その最たる例としては、歯を抜かない(非抜歯)矯正治療についてではないでしょうか。歯を抜きたくないという患者さんの気持ちを反映し、非抜歯矯正について好意的に記述しているホームページが増えてきました。その一方、非抜歯矯正を非難するHPも見受けられます。言葉的には、【非抜歯】と【抜歯】は反対語なので、ホームページ上で議論される場合も対立関係になりやすいのです。【非抜歯 VS 抜歯】と議論されている限りにおいては、患者さん自身何を信じていいのかと混乱し、とても不幸なことではないでしょうか。

ほぼ全ての症例を非抜歯で治療するという非抜歯矯正歯科があるようです。その中には、歯科矯正学の専門的な知識を持たずに、無茶な矯正をしているところが残念ながら存在するようです。無茶な矯正の結果としてよく言われるのが、「口元が飛び出してお猿やカッパのようになってしまった」というものです。このような患者さんの再治療を、抜歯矯正で受け持った別の矯正医が非抜歯矯正を非難するというのがその対立関係の図式です。この図式は、一部の歯科医の矯正を別の一部の矯正医が批難するというものです。責められるべきは【程度の低い、何が何でも非抜歯矯正】のみであって、適切な非抜歯矯正が責められるべきいわれはありません。また、非抜歯矯正を非難する矯正医の中には、【抜歯ありきの矯正】を好むドクターもおり、議論の中身が少し過激になっているように感じます。激しいからこそ、議論はよく目立ちますが、大多数の善良な矯正医は無関係のはずです。

患者さんやその親御さんが歯を抜きたくない理由として、以下の3つをがよく挙げられます。
①虫歯にもなっていない健全な歯を抜きたくない
②親(あるいは神様)からもらった大事な歯を抜きたくない
③痛くて怖いから歯を抜きたくない
①と②の場合は、健全で大事な歯を抜くべきでないという視点です。この気持ちはとてもよく分かります。これと同じ気持ちや価値観を持ったドクターが行っているのが、非抜歯矯正治療です。しかし、この"歯だけ"見た価値観がいきすぎると、何が何でも非抜歯矯正になってしまいます。実は、〝歯だけ〟より大事な視点があります。それは、〝口腔の機能と健康〟です。歯が集まって歯列になり、上下の歯列が合わさって噛み合わせを作り、上下の歯列を周囲の軟組織や骨がサポートして口腔という単位になります。口腔単位でみたときに、無理して歯を抜かなかったら不健康で、抜いた方がむしろ機能的でかつ健康的な場合があるとしたら、あなたは、それでも歯を抜きたくありませんか?無理な拡大により歯が前方に飛び出し、安静時に口を閉じられなくなったとしたら、見た目が悪いばかりでなく、口呼吸になり、健康上の不利益をもたらしてしまいます。細部を気にしすぎて、大事な全体が見えないことを「木を見て森を見ず」なんてよく言いますが、「歯を見て口腔を診ず」は戒められるべきものだと思います。
③の場合、運良く非抜歯矯正ができれば幸いですが、そうも行かないかも知れません。その場合、見た目だけの改善のために抜歯を説得したら、医療人としては失格だと思います。しかし、〝口腔の機能と健康〟から見て抜歯を説得するのは許されるのではないでしょうか。

以上より、【適切な非抜歯矯正】とは、あらゆる角度から非抜歯の可能性を検討し、あらゆる治療法を駆使して、可能な限り歯を抜かないで行う矯正であり、その結果は、機能的でかつ健康的である必要がある。そのような結果を得られない場合のみ歯を抜くのであって、例えやむを得ず抜歯する場合であっても、患者さんの健康上不利がなく、むしろ利得がある必要がある。それは、当然ながら、【何が何でも非抜歯矯正】とは全く異なるものです。

当院のHPに『歯を抜かない治療-終わりに』という記事があります。非抜歯矯正治療について、とても大事なことを書いたのですが、残念ながらあまりアクセスされていません。この記事と併せてご覧下さい。

P.S. セルフライゲーションブラケット装置(デーモンシステム)では、自然な歯列の拡大が得られますので、とても非抜歯矯正と相性がよいです。ただし、【何が何でも非抜歯矯正】とは正反対の位置にいます。セルフライゲーションブラケット装置(デーモンシステム)の考え方として、Face Driven Treatment Planning(顔貌主体の治療計画)というのがあります。これは、長期的な顔貌の安定性を考慮して歯の位置を検討する治療計画のことですが、平たく言えば、無理をせずに、口の自然閉鎖が得られるかを考慮して、歯を抜くかどうか判断しなさいということです。機能と安定性からみて、もっとも理にかなった診断法であります。

トップへ