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3-11 継続は力なり

− 歯列矯正に必要な、患者さん自身の継続的な努力とは? −

『継続は力なり』
この言葉、語学やダイエットなどでよく使われています。よく聞く言葉であるので、言い古されたもののように感じます。出典を調べたところ、住岡夜晃さんという宗教家が、詩の中で使用した言葉で、昭和初期と意外と新しいようです。何かをマスターしたり、何か成果を上げたりするには、継続することがとても大切です。しかし、三日坊主など、皆さんも継続の難しさは身を以て実感されているかも知れません。英語を使えるようになりたいと思っても、大抵は、テキストを用意しただけで、三日坊主になってしまいます。ダイエットもしかり。私にも、三日坊主の経験は山のようにあります。

さて、何故この言葉を冒頭に書いたかというと、歯列矯正治療は何年という期間がかかり、その間、ただ通院するだけで歯並びが治るのでなく、患者さん自身の努力が、矯正治療を成功させるためのキーとなるからです。あまり努力せずとも、簡単に治る歯列不正もありますが、舌の悪習癖による不正咬合など、患者さんの協力なしに、治療の成功があり得ない不正咬合もあります。開咬などはその最たるものです。

矯正のお話しの続きをする前に、語学とダイエットの話に戻ります。語学とダイエットが、何故三日坊主になりやすいのかは、明確な目的がないからだとよく言われます。単に、アメリカ人としゃべってみたいとか、痩せたいという理由は、漠然としていて、単なる願望に過ぎません。継続するだけのモチベーションとなり得ないのです。留学が控えているから語学の勉強、結婚が決まったのでダイエットと言う場合は、目的がはっきりとしているから成功しやすいのです。また、留学や結婚は、例えば、6ヶ月後と日取りが決まっているから、その日に向かって努力できるのです。大学受験でも同じですね。受験日が決まっているから、その日に向けて、一生懸命勉強するわけです。つまり、しっかりとした目標設定と期限があってこそ、目標達成まで高いモチベーションが維持され、『継続は力なり』となるのです。

数年間の歯列矯正を山登りに喩える先生が多いようです。キレイな歯並びの完成を、頂上というゴールに見立てて、矯正治療を山登りに見立てるわけです。治療方法の違いは、山頂を目指すルートの違いで説明されます。とても険しいが、最短で登頂できるルートといったものもあります#1。何故、登山に喩えるのか、それは、矯正治療は簡単なものでないと、ドクター自身が認識しているからに他なりません。本格的な登山ではないかもしれませんが、小学校の時の耐寒登山のようなものかもしれません。人によっては、高低差の少ない遠足程度かもしれませんが、大方の矯正治療は、継続する努力が必要で、多少なりとも、しんどいものなのです。山登りするためには、目指す山に応じた体力が必要でしょう。歯列矯正に関しては、『山に登る体力=患者さん自身が歯並びを治したいという気持ち』と考えて下さい。【子供さん自身が歯並びを気にしていますか?】という拙者コラム読んでいただければ、山に登る体力が、いかに大事かお分かりいただけるでしょう。

語学やダイエットのように、継続する努力が必要なものを、マスターしたり、成し遂げたりするには、明確な目標と期限の設定が大事であることを述べましたが、歯列矯正も同様です。『2年後に、歯並びを絶対キレイにする』という目標と期限を設定して下さい。治療を始めたら、勝手にキレイに"なる"のではなく、"する"という意気込みが大事です。親や他人の強制では、そのような意気込み持つのは難しいでしょう。成人矯正がうまくいくのも、自分で全てのことを決断し、自分で高額な治療費用を払うから高いモチベーションが継続するのであり、更に、歯並びをキレイにすることが、単なる希望ではなく、期限付きの明確な目標であるからです。この辺りのことについては、【30歳からの歯列矯正】という拙者コラムもご覧下さい。

矯正治療中、患者さん自身が努力する必要のあることは、主に次の3つになります。
①歯磨き
②決められた時間の装置(可撤式装置、顎外固定装置、顎間ゴム)の使用
③舌や口唇のトレーニング
①歯磨きは矯正患者さん全てに関わることですので、とても重要です。固定式の矯正装置が歯につくと歯磨きがとてもしにくくなります。矯正治療で歯並びがキレイになっても、虫歯になっては台無しです。詳しくは、【矯正治療中の虫歯予防】をご覧下さい。
②ですが、矯正装置には様々なものがあります。大きく分けて、取り外せるものと、取り外せないものがあります。取り外せる装置の場合、ドクターの指示通りに使わないと効果が期待できません。中には、歯磨きと食事の時間を除く、ほぼ1日中の使用を必要とするものもあります。
③ですが、歯列不正には、開咬のように、舌の悪習癖が原因となって起こるものもあります。この原因が除去できない限り、治療が長期間に及んだり、治療後に後戻りしたりする可能性が高まってしまいます。これら悪習癖を除去するためのトレーニングがあります。詳しくは【口唇・舌トレーニング】をご覧下さい。

矯正治療の期間は最低でも2年かかります。2~数年もの長期間、何か一つのことに努力するということ、人生でそんなにないと思います。上記①~③に対して、継続的な努力をしながら、この長丁場を乗り切るために、先ずは、ゴールまでの道程を把握しておくことが賢明です。頂上が見えなくても、今どこの場所にいるか分かれば安心するものです。頂上が見えれば、足取りも一気に軽くなるでしょう。当院ホームページのコンテンツに、【エッジワイズ治療】というものがあります。一般的なワイヤー矯正の流れをステップごとに解説しています。これを参考にしながら、自分のいる位置をドクターに尋ねて確認してみて下さい#2。また、キレイな歯並び完成という大きな目標の達成前に、いくつかの小さな目標を設定し、それらをクリアして行くこともモチベーション維持に役立つでしょう。例えば、この歯とこの歯が噛み合うまでゴムを頑張るとか、比較的短い期間でできる小さな目標を決めてやるのです。そのためには、何のためにゴムをかけるのか、具体的に歯がどうなったらゴムが効いたと判断できるのか、患者さん自身が理解しておくことが望ましいです。顎間ゴムの目的や具体的な目標設定について、ドクターに尋ねて確認しておきましょう。

一人で継続できる、意志の強い患者さんもいらっしゃいますが、子供さんの場合は、親御さんが積極的に治療に関わることも必要だと思います(【親御さんに伺います-本当に子供さんの歯並びを気にしていますか?】も参考にして下さい)。ドクターや衛生士は、ガイド役として歯列矯正という登山にご一緒します。ただし、単なる道案内ではなく、色々なことに配慮しながら、少しでも快適な登山となるようサポート致します #3。数年間のガイド役なのですから、相性が大事なのは言うまでもありません。医院の技術面だけでなく、ドクターや衛生士との相性も医院選びの大切なポイントとして下さい。

#1 MEAWと呼ばれる、開咬症例に劇的によく効くワイヤー矯正があります。MEAW自体は、開咬以外にも、下顎前突や上顎前突など色々な症例で使用可能ですが、開咬治療で特に有名です。治療メカニズムについて詳しく説明しませんが、前歯部に顎間ゴムをできるだけ長時間(ほぼ1日中)かける必要があります。もし、顎間ゴムの装着を指示通り守らなければ、治らないだけでなく、むしろ開咬状態が悪化してしまうという、危険な側面を持っています。顎間ゴムを使用しなくても治療の進行が遅くなるだけで、まさか歯並びが悪化するとは、ほとんどの人が思っていないとおもいますが、現実には、そのまさかが存在します。このような治療を山登りに喩えると、「とても険しいが、最短で登頂できるルート」と言えます。

#2 治療後半年も経たないうちに、後どれ位で治療が終了しますかとよく尋ねられます。この質問は、治療段階を把握したいというよりも、早く外したいという気持ちから生じたものでしょう。その気持ちはよく分かりますが、最初に2年かかりますと説明を受けていれば、約1/4の段階。早くよりも、きっちり治すが本筋のはず。そのような気持ちでは、ゴールまでの道のりは険しいですよ。

#3 治療中、ドクターは本当に色々なことを考えます。治療法だけ考えているわけではありません。患者さんのモチベーション維持にも気をつかっています。ある患者のお母様よりいただいた言葉の一部をご紹介致します。「装置の痛みはもちろんのこと、進路や部活の話題もして下さり、思春期に治療を受けるマイナス点をとても良くケアしていただいたと思います。」

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