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2-5 虫歯、差し歯など歯に問題があっても矯正はできるのか?

以前のブログ記事(矯正治療は何歳までできるのか?)で、歯周病があっても歯列矯正治療ができるのかどうかについて言及しました。今回は、虫歯や差し歯がある場合について書こうと思います。

最近は虫歯が全くない患者さんも増えてきましたが、それでも欧米と比べると、まだまだ日本人は虫歯が多いと思います。虫歯があって矯正治療ができない場合はほとんどありませんが、できれば先に虫歯治療を済ましておいた方が良いでしょう。

虫歯が比較的に小さい場合は、悪い部分のみ削り取って、詰め物をします。詰め物には、レジンと呼ばれる白色の歯科用プラスチック(レジン充填)や金属(メタルインレー)、セラミック(セラミックインレー)などがあります。

比較的に大きい虫歯の場合には、患部を削り取った上で、歯をすっぽりと覆うように冠(クラウン)を被せます。このクラウンのことを、一般的に"差し歯"といいます。

矯正より先に虫歯治療をした方が良いと書きましたが、矯正治療で抜歯する予定の歯まで治療する必要はありませんから、予め矯正歯科医院で診断を受ける必要があります。また、クラウンを入れる場合は、一時的なクラウンにとどめておいて、矯正後に、噛み合わせにバッチリとあったクラウンを入れるのが望ましいことが多いです。

つまり、無駄に出費せず、良い虫歯治療を受けようとするならば、先ずは、矯正歯科を受診し、矯正歯科医の指示のもと、虫歯治療を受けるのが良いと思います。

虫歯で歯が痛い場合は、矯正医の診断を待ってられないでしょから、一般歯科を先に受診して下さい。ただし、歯列矯正を考えていることを主治医に相談して、最善の方法を考えてもらって下さい。

矯正治療中に虫歯が見つかったり、虫歯ができてしまった場合もあります。虫歯が歯と歯の間に隠れていて小さい場合は、目で直接確認できず、レントゲンでもはっきりと写らないことがあります。このような場合に、歯が動くにつれて、虫歯が見えるようになってくれば、矯正治療中でも、虫歯治療を受けてもらう必要があります。また、新たに虫歯ができた場合も同様です。矯正装置を部分的に外して虫歯治療をしてもらい、治療後すぐに、再装着することで対処可能です。

次に、差し歯がある場合の矯正治療について述べておきます。ワイヤー矯正ではブラケットと呼ばれる装置を歯に直接接着し、それにワイヤーを通すことによって歯を動かして行きます。最近の接着剤は何にでもよく付きますので、差し歯にもブラケットを接着できます。しかし、天然歯への接着力と比べると、差し歯への接着力は劣りますので、場合によっては何度も外れることがあります。そのようなとき、奥歯なら、バンド(右図)と呼ばれる金属の輪っかを歯にかけることにより対応します。前歯なら、目立つバンドをせずに、差し歯に穴を開けて接着力を強めることがあります。この場合、矯正後に、差し歯をやり替える必要があります。

隣り合った差し歯が連結されている場合(連結冠)や、欠損部を挟んで橋のように差し歯を連結している場合(ブリッジ)には、矯正に当たって、連結部を切断する必要があるかもしれません。そのような場合にも、治療後に再治療が必要になります。

さて、矯正前に、虫歯があったり、詰め物や差し歯を施した治療済みの歯があったりするということは、カリエスリスクが極めて高いという証拠です。舌のおかげで唾液の循環がよく歯垢がたまりにくい裏側の矯正に比べて、表側は4.8倍ものカリエスリスクがあります。また、本人の意思によらずイヤイヤ矯正を開始した子供の場合、そのリスクは更に高くなります。せっかく歯並びがキレイになっても歯に穴があいたり、歯が変色したのでは台無しです。歯磨きをしっかりして、虫歯のリスクをゼロにしてもらいたいと思います。

P.S. 1
上記で、差し歯の場合にバンドを装着することがあると書きましたが、バンドは差し歯専用のものではありません。天然歯であっても、奥歯には必ずバンドをする先生の方が多いと思います。それは、奥歯が噛み合う大きな力で、ブラケットが脱離するリスクを減らすためや、前歯の後退時に、奥歯にかかる大きな力に抵抗するためです。
ただし、私自身は、できるだけバンドを使わないよう努力しています。それには次のような理由があります。バンドをしない方が患者様が楽なため、バンドを装着する時間がいらないので治療初期の進み具合が早いため、バンドの辺縁部のカリエスリスクを減らすため、バンドを外した後にできるわずかなスペースを閉じるのに意外と苦労する場合があるため、等です。

P.S. 2
右の画像は1970年発行の[American Journal of Orthodontics Vol.58, p602]から引用したものです。昔のエッジワイズ装置は、全帯環装置といって、全ての歯にバンドが巻かれていました。その当時、差し歯でなくても、天然歯にさえブラケットを接着させることが不可能でした。1970年と言えば、大阪で万博があった年で、人類が月面着陸を成功させた翌年です。既に相当な科学の進歩があったはずなのに、矯正治療はかなり遅れていました。当時、全帯環装置で矯正治療を受けた子供達は本当にえらいと感心致します。
今では、差し歯があっても、大抵はバンドを使用せずに治療可能です。矯正の歴史は、接着剤の進歩とともにあったと言えるかも知れません。

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