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1-5 歯の欠損について - 永久歯先天欠如

- 生まれつき歯の数が少ない場合、放置してもよいのでしょうか? -

人間の歯は全部で何本有るかご存じでしょうか?乳歯は20本、永久歯は32本です。永久歯のうち、4本の親知らずを除いた28本がキレイに並び、上下でしっかりと噛み合うことが、正しい歯列の基本であり、歯列矯正治療の目標でもあります。

もし生まれつき歯の数が足りないとしたら、何か問題が起こるのでしょうか?歯にはそれぞれ役目が決まっており、無い歯があると機能的に問題が起こります。また、当然ながら見た目にも不利です。

生まれつき歯の数が足りないことを先天欠如といい、乳歯が先天欠如することは希ですが、永久歯列ではよく起こります。その頻度ですが、少し前に日本小児歯科学会が調査し、約10人に1人の割合でいることが分かったそうです(10.09%)

当院の患者さんにも永久歯先天欠如の方がいらっしゃいます。かかりつけ歯科医からの指摘や学校健診により、事前に知っておられる方もいらっしゃいますが、私の指摘により初めて知られる方もいらっしゃいます。当院の患者さんでも、先天欠如の割合を調べてみたところ、8.90%の人に見つかりました(親知らずの先欠は除く)。小児歯科学会のデータである10.09%と比べれば、1.19%少ないですが、そもそも先天欠如があっても歯並びを気にしていない人は矯正歯科を受診しませんから、極めて妥当なデータだと思います。(ちなみに歯の数が過剰の場合は、小児歯科学会の調査では5%、当院では3.6%でした。)

永久歯が先天欠如すると、その部分の生え替わりが起こらないため、乳歯が脱落せず残存したままになります。前から数えて5番目の永久歯である第二小臼歯が欠損している場合には、第二乳臼歯が虫歯などで抜けたりしない限り残存し続けます。小児歯科学会の報告では、下顎の第二小臼歯の欠損率が最も高かったそうです。ただし、当院では2番目の欠損率でした。

また、次に頻度の高い下顎前歯部の欠損ですが、この部分は乳前歯が残存し続ける可能性は低いです。この部分は、スペース的に余裕のないところに、大きな永久前歯が萌出するからです。小児歯科学会の報告では、下顎の第二小臼歯に次いでの欠損率ですが、当院では、この下顎前歯の欠損率が最も高かったです。下顎前歯が欠損すると、上顎前歯の方が数が多くなるため、大抵は上顎前突を呈します。この場合、審美的に問題がありますので、矯正歯科にかかる可能性が高くなります。そのため、小児歯科学会の報告と異なる結果となったのだと思います。

さて、歯の先天欠如があった場合には、機能的にも審美的にも問題があると述べました。つまり、矯正治療の対象になる場合が多いのです。歯が全て揃っている場合と比べて矯正治療は断然難しくなります。上下顎の歯列はほぼ相似形で、上下顎とも左右対称ですから、先天欠如があると、このバランスが崩れやすくなるため難しくなるのです。

この歯列のバランスを保つためには、以下の3つの対処法が考えられます。
①先天欠如部のスペースを保持し、将来インプラントやブリッジなどの人工歯を入れる。
②先手欠如部のスペースを作って、将来インプラントやブリッジなどの人工歯を入れる。
③先天欠如部のスペースを閉じる。

①の場合、人工歯の装着は大人になってから行うのが望ましいため、スペースを保持するための保隙装置を、人工歯装着するまで期間入れておく必要があります。例えば、前から5番目の第二小臼歯が欠損していている場合、前から6番目の第一大臼歯が手前に倒れて移動してくるのを何としても防ぐ必要があります。残存している乳歯が健全なら、この乳歯を保隙装置代わりにできるだけ保存しておきます。ただし、乳歯が骨性癒着(アンキローシス)している場合には、その部の歯槽骨の垂直的な発育が阻害される可能性があり、早めに抜いて保隙装置を装着した方が良い場合もあります。

②の場合とは、先天欠如部の乳歯が抜けたまま放置され、隣在歯が寄ってきてスペースが失われたケースで、将来の人工歯のために、失われたスペースをもう一度回復させることです。放置期間が長くなり、成長発育期も過ぎてしまったなら、スペース回復は難しくなります。この場合は、一刻も早く矯正治療を開始する必要があります。

③の場合ですが、たいていの場合、上下・左右の歯の数を揃えるために、永久歯の抜歯を必要とします。先天欠如があるだけでも残念なのに、何の問題もない永久歯を抜くことは非常に抵抗があることでしょう。抜歯したスペースはエッジワイズ装置により閉じます。

①~③のどの方法が良いかはケース・バイ・ケースです。どの方法にも一長一短があり、主治医自身が決めかねる場合も多く、最終的には、患者さんの希望が優先されることが多いです。患者さんには、次のようなことを検討した上で治療法を選択して頂きます。費用の大小、健全な歯を抜くのに納得できるか、ブリッジの土台として健全な歯を削るのに納得できるか、インプラントの手術が怖いかどうか、一生持つような人工歯なのか、いつまで治療がかかるのか等々です。ただし、状態によっては、選択肢が限られる場合もあります。

もし、先天欠如があるのに放置して、バランスが著しく崩れてしまった場合には、選択肢がとても限られる恐れがあります。そうならないためには、先天欠如歯があるのが分かったら、速やかに歯科医にかかり、その部の管理をしてもらうのが大事です。矯正治療が必要となることも多いですから、その管理には、できれば矯正医が適任だと思います。

残念ながら、具体的な説明がなかったり、矯正治療的選択肢を提示されないまま、ただ"様子を見ましょう"と言われている場合があります。明確な治療イメージがないまま放置されると患者さんはとても不安です。また、選択肢が少ないと、患者さんにとってとても不利です。もし、"様子を見ましょう"とだけ言われたら、どのような場合にどのような治療になるのか、担当医にはっきりと確認しておきましょう。

P.S.
『乳歯が先天欠如することは希ですが、永久歯列ではよく起こります』と述べました。その原因は分かっていないと思いますが、私は次のように考えています。永久歯が欠損していても、乳歯が脱落せず残存していたら、歯としての機能が果たせます。しかし、乳歯が欠損してしまったら、離乳後に食物を咀嚼することができず、生命が危急的状態に陥ってしまいます。つまり、生物学的には、永久歯より乳歯の方が大事かもしれないということです。

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