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1-15 歯列矯正をしたのに、歯並びが治らない!?

歯列矯正をしたのに歯並びが治らないといって、他の医院にセカンドオピニオンを求められる人が増えているようです。当院にも、そのような相談が寄せられています。その中には、ドクターとのコミュニケーション不足からくる誤解もありますが、実際に治っていない例も結構あります。

数十万円も費用がかかる歯列矯正なのに、治らないという事態があっては困りますが、全てが解明されていない身体というものを扱う医療である以上、残念ながら100%保証できません。しかし、そのような状況であっても、私たち矯正医は100%の治療成績を求めて日日研鑽し真摯に診療に当たっています。

矯正医には知識に裏打ちされた技術が必須で、一定のレベルになるには、何年もの習得時間が必要となります。また、新たな知見や新たな矯正装置など、続々と登場してきますので、真面目に努力している限り、技術の向上に際限はないように思います。このような一定レベル以上の矯正医が治療に当たっている限り、トラブルはあっても、とても少ないように思います。

しかし、歯列矯正にかかわるトラブルの増加が言われる昨今、どうも一定レベルに達していないドクターが安易に歯列矯正を行っているような話を聞きます。歯科医の過剰からくる経営環境の悪化で、矯正に新たに取り組んで収益を上げようとする人たちがいるという背景があるようです。講習会で話を聞いただけで、臨床実地経験の少ないドクターが、難しい症例に手を付けた場合など、当然ながらトラブルになります。それでも、簡単な症例だけ選んで手がければトラブルになるはずないのですが、そもそもレントゲン的な分析をマスターしていなかったり、診療経験が不足していたりすると、正しく診断できず、症例の難易度を評価できないのです。経験豊富な矯正医には、このようなドクターは自ら進んで禍に身を投じているように見えているはずです。しかし患者さんにそのような禍が見えるはずもなく、不幸にも巻き込まれてしまうのです。

歯列矯正を行うのは当然ながら歯科医師免許を持った歯科医であり、費用も高額なため、患者さんとしては、まさか歯並びが治らないことがあるとは夢にも思っていません。一定レベルに達していないドクターも、まさかトラブルを起こそうとは思っていません。しかし、トラブルが増えている以上、患者さん自身が賢くドクターを選ぶしか道はなさそうです。

臨床経験が豊富になると、予想外の経過をたどってどうしてもうまく治らなかった苦い経験が過去にあるものです。そうすると、やけに耳当たりの良いことばかり言わなくなるものです。その観点から考えると、以下のような場合は、治らないというトラブルに遭う可能性がありますので、注意して頂きたいと思います。

「早く治療を始めれば、早く終われます。」との説明を受けた。

一般的な物事は、たいてい、早く始めれば早く終わります。それに則ると、矯正治療に関しても正しいように感じられると思います。矯正装置が作用すると、直接的な歯列の変化が起こりますが、その期間のみを治療期間と思われるかも知れません。しかし、実際には、歯が乳歯から永久歯に交換する期間や、成長によりアゴの骨が大きくなって安定するまでの期間も治療期間にプラスされます。永久歯列が完成してみなければ、『治った』との評価はできないのです。つまり、「早く治療を始めれば、治療期間はむしろ延びてしまう場合の方が多い」というのが真実だと思います。例えば、受け口のケースで、高校生くらいの時期に晩期成長があった場合では、成人になるまで治療がかかります。もし、このようなケースで、幼稚園くらいから矯正を開始していたとしたら、治療期間は非常に長く、とても気の毒なことだと思います。
これとよく似た説明で、「小学生の内に終われます。」というのがあります。永久歯列の完成は、第二大臼歯(12歳臼歯)の萌出完了までです。小学生の内で、4本全ての第二大臼歯が萌出完了している人は、とてもわずかです。つまり、小学生の内に治療が完了する人はとても少数で、多くの場合、この説明も間違いです。
【子供の矯正治療の開始時期と終了時期について】というコラムもご覧下さい。

「絶対に歯を抜かないで治ります。」との説明を受けた。

できるだけ抜かない矯正治療は存在し、私たちの医院でも実践しています。しかし、「絶対に」となると極めて怪しくなります。歯列を単に横方向へ無理に拡大した場合、どこで噛んだらよいか分からなくなったり、口元がお猿さんのように飛び出しで、口が閉じられなくなったりするような矯正があるようです。
【非抜歯? 抜歯?】というコラムも参考にしてみて下さい。

「寝るときに付ける装置だけで治ります。」との説明を受けた。

様々な取り外せる矯正装置があります。当院でも、症例に応じて使用する事がありますが、寝るときだけの使用で治るような患者さんはとても少数です。矯正専門医院では、エッジワイズ装置など、取り外せないものが主流で、効果も確実です。
【子供の矯正治療装置】というコラムもご覧下さい。

歯列不正になった原因について全く言及がない

耳当たりの良いことというくくりで言うと、ちょっと違いますが、他院で2度の矯正に失敗し、当院での3度目の矯正で完治された方の事例を思い出したので、ここで触れておきます。
単に、歯とアゴの大きさのバランスが崩れているとしか言えず、原因のはっきりしない不正咬合も多く、殊更に言及すべき事柄がないこともあります。しかし、舌に問題があって不正咬合になっている場合など、原因の考慮が一番大事になります。その患者さんは、舌癖が原因で開咬になっていたのですが、過去の2度の矯正では、全く舌のことについての説明がなかったとのことでした。当然ながら、原因を把握していないのですから、いくら歯列矯正をやっても治りません。挙げ句の果てに、健全な奥歯の噛んでいる面を思いっきり削られてしまいました。確かに、短期的に開咬は良くなりますが、原因を除去できていないので、すぐに開咬が再発しました。気の毒なことに、歯を削ったことは全く無意味だったのです。舌の問題を解決することは、ベテランの矯正医でも厄介な問題なのですが、気付くぐらいなら、少し経験を積めば分かる事です。そのドクターは自分の手に負えないと判断できなかったのです。

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